日本画学科とは

東洋画の長い伝統を受け継ぎ、外来の文化の影響を吸収しつつ形成され、発展してきた日本画。その独自の造形思想と優れた材料•技法は、世界の美術の中で個性的な位置を占めています。本学科の目的は、伝統に基づく技法、造形や美意識、表現など、日本画の基礎を習得するとともに、個性豊かな新しい表現を展開し、創造する力を育てることです。

「日本画」それは 絵画の原初と関わること。

私が日本画の材料と関わりいつも感じるのは素材の持つ原初的な部分です。
それを意識させられるのは、現在の芸術がウェブ上の情報として消費されていることと無縁ではありません。
もちろん、デジタル技術がなければ例えば現在コロナウイルスの感染拡大のため行われているオンライン授業もできないし、SNSでコミュニケーションをとることなどの恩恵を受けることもなかったでしょう。
また、描くだけで世界が立ち現れること、それはパソコン上でも同じことだと思うかもしれません。
デジタルでしか実現できない芸術表現も数多くあります。
デジタル表現は二次元を超えてさらなるバーチャルな世界へと展開されていますが、その一方で素材や行為、身体や生活に密着した表現の原初を意識した芸術が見直されてもいます。
それは原始美術が宗教、呪術、音楽、美術、装飾、舞踊などと未分化のままで存在していたことを意識させます。
このような状況のなかで私自身は有史以前から続く「手で描く」という単純で直接的な表現方法がイマジネーションをかたちにする最良な方法だと思っています。
そこには現実の絵具や紙という「物質」に描くという「行為」性を通して偶発的に起こる現実と関わることの生々しさがあります。
それは生活の中で起こる様々な事柄が想像を超えた体験として記憶の中に残ると同じように現実感を持った強い表情を残すことができるのです。
日本画の素材は原始時代の洞窟壁画とほとんど変わらない自然を由来とする素材でもある土や岩です。
素材そのものと格闘することで絵画が原初的な表現行為であることを意識できるのです。
チューブから出して使う絵具ではない日本画の素材の可能性は無限に拡がります。
この素材と出会うことから、あなたにしかできない芸術表現を探して欲しいと思っています。

日本画学科主任教授  尾長良範

チョウ・アンテキ
「epilogue…」W1620×H1460(㎜)
「good night in the raining night」W1620×H1460(㎜)
令和元年度修了制作優秀賞

日本画学科カリキュラム

1年次日本画基礎Ⅰ[日本画材料の説明、静物、墨]
日本画基礎Ⅱ[野外・風景、古典模写]
造形基礎・選択[絹本ほか]
絵画基礎Ⅰ[人体デッサン]
日本画基礎Ⅲ[人体制作]
造形総合科目Ⅰ類(各自、他学科の授業を選択します)
用具の説明、絵具の溶き方など日本画の最も初歩的な基礎技法を学びながら、写生を行い、制作します。墨の表現では、たらし込みなどの古典技法を学び、次に風景写生制作へと進みます。人体デッサンでは素描力を強め、また古典模写により日本画における線描を学びます。また他学科との授業交換により、様々な表現方法を学び基礎表現力を身に付けます。
2年次日本画基礎Ⅳ[鳥獣魚デッサン、動物制作]
日本画基礎Ⅴ[意匠と造形、箔指導]
日本画基礎Ⅵ[表現と発想]
絵画基礎Ⅲ[古典研究、裏打指導]
絵画基礎Ⅱ[人体デッサン]
日本画基礎Ⅶ[進級制作、コンクール]
動物や鳥、魚などを観察・素描し、生き物のフォルムや動きを捉え、制作を行います。
人体デッサン及び人体制作で、造形としての表現力を体得し、古典模写によって日本画の線、空間に対する認識を深めます。意匠と造形では、金銀箔、砂子、切金等の伝統技法を学び、日本画独特の造形思考を実践して習得します。
3年次絵画実習Ⅰ[古典研究、自主制作]
絵画実習Ⅱ[身体性とドローイング]
絵画実習Ⅲ [風景デッサン、風景制作]
絵画実習Ⅳ[自主制作、コンクール]
絵画実習Ⅴ[自主制作]
絵画実習Ⅵ[自主制作、展示ゼミ]
3年次は、各自の主体性を重視した自主制作となり、2つのクラスに分かれた授業となります。
それぞれがテーマやイメージを探したり、表現方法に挑戦したりと、この時期は失敗を恐れずに、積極的に自身の制作に取り組みます。古典研究や写生旅行、12号館地下展示へ向けての展示ゼミも行います。
4年次絵画実習Ⅶ [自主制作]
絵画実習Ⅷ[自主制作、卒業制作前提講義]
卒業制作[学内卒業制作展、東京五美術大学連合卒業制作展]
自由なテーマによる100号制作では大きな画面と取り組み、卒業制作への大切なステップとします。卒業制作は発想下絵(エスキース)の段階から充分に準備し、構想を練り個別の指導を行います。卒業制作は4年間の集大成ともいえる大切な課題となります。作品は、全学的規模で開かれる卒業制作展に出品されます。
大学院●美術専攻日本画コース
各自が作品制作についての年間計画を立て、自由に研究を行います。学内外での発表を含めた、より実践的な活動を通して作家としての意識を高めていきます。また、客員教授の北澤憲昭氏によるゼミを開講します。
[学内外での研究発表展、学内修了制作展、学外修了制作展/佐藤美術館]

●博士(後期)課程の研究領域
表現を改めて問い直し、より専門性の高い研究を進めます。立体・空間造形など多様な分野も視野にいれた自己の作品の可能性を探り、作家としての活動を行います。

沖綾乃
「食卓」
W2700×H2000(㎜)
令和元年度卒業制作優秀賞

遠藤彩音
「侃侃諤諤」
W4550×H1800(㎜)
令和元年度卒業制作優秀賞

特別講義・課外授業など

・和紙ゼミ

ロサンゼルス在住のアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン教授、池崎義男氏による手漉き和紙の講義と実習です。
和紙の原料である楮を煮ることから始まり、各自大小の手漉き和紙の制作工程を学びます。又、世界の手漉き紙の紹介と講義があります。

・筆指導

筆職人、清晨堂阿部悠季氏による日本画の筆の製作工程に関する講義です。ここでは、学生が実際の原料で各自筆作りを学びます。

・箔古典技法指導

箔師である遠藤典男氏による箔についての説明と基本から応用までの技法に関する講義です。

・裏打ち指導

日本画家であり、東京藝術大学大学院文化財保存学専攻保存修復日本画研究室で非常勤講師をされている武田裕子氏による裏打ち指導です。

・特別講義

国内外で活躍する作家、他大学教員、研究者などを招きアトリエ指導と共にレクチャーやワークショップを実施しています。又、日本画学科客員教授によるゼミ講義、非常勤講師によるレクチャーもあります。

・課外講座

国内外で活躍する作家や美術家、研究者を招聘し、日本画学科主催として学内外へ向けて講座を広く公開するものです。客員教授による課外講座も開催します。

・4年生による展示実習

学部4年生大学院生有志による12号館地下展示ゼミを毎年開催しています。これは学生たちが自主的に展覧会の運営、企画、広報などに携わり、担当教員と相談をしながら毎年5月に開催するものです。会期中に学外の美術館学芸員、美術評論家、及び学内他学科の教員をゲストに招いて、公開講評会を行います。

・その他学外展示

佐藤美術館 大学院修了制作展
コートギャラリー国立
有志学部生による選抜展

・風景写生旅行

学部3年生「絵画実習Ⅲ[風景]」の授業の一環として、海や高原などへ2泊3日の旅行をし、周辺の風景写生を行います。最近では、伊豆や日光、白馬村等に旅行しました。夜には、学生・教員が昼間に描いた写生を持ち寄り、宿で研究会を行います。

・国際交流プロジェクト

武蔵野美術大学の国際交流プロジェクトにより、海外の大学やアートセンターと共催で日本画学科独自の交流プロジェクトを開催しています。これは、海外の美大生やアーティストと共に展覧会やワークショップを作りながら、日本画の学生たちが海外の文化を知り、アーティストたちと広く交流するために行われるものです。アメリカ-ロサンゼルス、メキシコ-オアハカ、ブラジル-サンパウロなどのアートセンターで、これまで開催してきました。

・古美術研究旅行

日本各地に点在する神社仏閣を訪れ、様々な障壁画や仏像、古美術の研究を行います。これまでに京都や奈良のほか、那智や高野山、琵琶湖湖北、最近では沖縄や長崎でも研修を実施しました。京都・奈良旅行では武蔵野美術大学奈良寮に宿泊します。

寺野葉
「あの衣」W1620×H1900(㎜)
「この衣」W1800×H1900(㎜)
「その衣」W1620×H1900(㎜)
令和元年度卒業制作優秀賞

落合あや
「白露」
W3200×H1600(㎜)
令和元年度卒業制作優秀賞

教員・スタッフ

専任教員尾長良範(主任教授) 西田俊英 山本直彰 岩田壮平
客員教授北澤憲昭 土屋禮一 栗林隆
非常勤講師荒井経 泉桐子 今村有策 小金沢智 阪本トクロウ 中村ケンゴ 松谷千夏子 吉賀あさみ 吉田有紀
助教川名晴郎 手嶋遥
教務補助員秋葉麻由子 宮城彩