2020年4月22日
武蔵野美術大学日本画学科主任教授 尾長良範

 

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって武蔵野美術大学も影響を受け新年度の授業開始が遅れておりますがみなさんはどのようにお過ごしでしょうか?
この時期には鷹の台キャンパスのアトリエで制作することや先生方や他の学生との交流ができると楽しみにしておられたのではないかと思います。しかし日本の今の状況では安全に学生生活をおくることができません。そのため大学ではしばらくの間、学生の入校禁止のままで授業を行うことになりました。
日本画学科では対象をみること、また制作した作品を実際にみることを大切にして授業を行ってきました。
現実に物をみることで得られた実感が表現の原点として重要と考えているからです。
ですからこのようなモニター越しの授業となることは大変残念に思っております。
ただ絵を描くこと、あるいは芸術というものは、当たり前のことですが生きていてこそ造りだすことができるものです。
100年前のパンデミックであるスペイン風邪では画家のグスタフ・クリムト、エゴン・シーレ、日本では村山槐多などが亡くなっています。
特にエゴン・シーレは28歳、村山槐多は22歳の若さでした。
彼らがもう少し長く生きていたらどのような展開を見せていたのでしょうか?
いずれにせよみなさんは、一つしかない自分の命を大切にしてください。
また同時代を生きた村上華岳に「制作は密室の祈りなり」という言葉があります。
晩年、自室に篭り自己に向き合い独自な仏画を描き続けた華岳らしい言葉だと思います。
他にも伊藤若冲、ジョルジュ・モランディなどが外界から自らを閉ざして優れた絵画作品を制作しています。
もちろん彼らは自分でアトリエにいることを選んだだけで現状のように社会的な要請で家の中にいた訳ではありません。
ですが日本のこのような状況の中では彼らがどのような思いで制作を続けていたのだろうかと考えずにはいられません。
いましばらくは自室で制作してください。
また今回の新型コロナウイルスは今後の社会全体に影響します。芸術も例外ではありません。そのことを意識において自分の表現をみつめる機会として過ごしてください。
日本の現在の状況が収束したあと大学でみなさんにお会いできることを楽しみにしております。